29.異文化コミュニケーション①

自分の思い通りに事が運ばないとき、誰かの責任にして自分のイライラを解消したいとんでもない人っていますよね。日本人、アメリカ人、そして通訳を担当しているあなた、という3人態勢で、例えば「交渉」がテーマのビジネス通訳を行った場合、その交渉が上手く行かなかったとき、「今日は通訳が悪かったからダメだった」と聞こえるか聞こえない声で言われてしまうこともあります。もちろん通訳者の技術の良し悪しが結果を左右することもありますが、共通する文化を持たない人と人の間でコミュニケーションを取り持つ通訳者は異文化コミュニケーションとはどういうものか、ある程度は理解しておいた方がいいでしょう。

成功しているコミュニケーションとはどういうものでしょうか。「自分の意図を過不足なく相手が理解してくれること」とも言えますが、自分と対する相手あってのコミュニケーションを考えると、少なくとも「互いに不快にならないこと」が成功しているコミュニケーションと言えるのではないでしょうか。

コミュニケーションでは、自分の心の中にある思いや考えを「音声」や「文字」という記号に置き換えて相手に伝えますが、同じ文化的背景を持つもの同士でも全く同一の記号を持ち合わせていることは少なく、共通して立つその「場」を頼りにして記号を解釈することでコミュニケーションを成立させていきます。例えば、日本語には、「以心伝心」ということばがありますが、これは、ことばにしなくても人の気持ちは相手に通じるものである、という文化が日本人に共通としてあるからです。一方、アメリカ社会においては、物事が詳細に明確に説明されることを期待していて、「以心伝心」なコミュニケーションスタイルは通用しないのです。

「一を聞いて十を知る」という諺があるように、日本人は言外の意味を込めて相手にメッセージを伝えることを好む傾向があります。事細かくメッセージを伝えてしまうと、押しが強く、相手を馬鹿にしているかのような印象を与えてしまうからです。

日本を含む多くのアジア文化圏では、相手にメッセージをほのめかして伝える「高コンテキスト」文化を基本としています。つまり、文脈に依存し、メッセージの受け取り手である聞き手に、行間を読むことが求められているのです。互いに文脈を共有しているので、相手の表情や仕草から、膨大な量の言外の記号を集めることができます。互いに交わされるコミュニケーションの記号は、実際に使われていることばというよりも、文脈であることのほうが多いのが、日本人同士のコミュニケーションスタイルと言えます。

一方、アメリカを含むアングロサクソン文化圏では、相手にメッセージを明快に曖昧さのないように伝える「低コンテキスト」文化を基本としています。もともと、さまざまな国からきた移民で構成されている大国なので、互いに共有する文脈を持たず、論理的かつ明快にメッセージを伝えないと、相手に大変な誤解を与えてしまうのです。つまり、文脈に依存せず、メッセージの送り手である話し手が、明確で字義通りに理解できる話し方をすることが求められているのです。コミュニケーションでは、お互いに交換し合うことばである記号こそが意味の役割と担っているのがアメリカ人同士のコミュニケーションスタイルです。

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