18.訳出①

オリジナル音声の内容を理解しながら耳を傾け、理解した結果をメモに落としたら、取ったメモを見ながら通訳(訳出)をしていきます。第7回、第8回で日本語運用能力の話をしましたが、しばらく日本語について考えてみたいと思います。皆さんも自分が通訳を依頼されたら現場でどう訳出するだろうか考えてみてください。

さて、本日の通訳の現場は、ある外資系企業での工場見学です。施設担当者の話す英語を日本語に通訳してみましょう。

Good morning and welcome to our factory. My name is Kathryn Craft, and I’m the Manager of the factory. Today I will be taking you around our factory to view its latest facilities.

Good morning としかオリジナルは発言していませんが、工場見学に来られたお客様をたくさん目の前にして話しているわけですから、「皆さま、おはようございます」と通訳してみましょう。

Manager of the factory をこのまま、「このセンターのマネージャーです」と通訳するのは最悪です。現代日本語にはカタカナが溢れ、新しい時代の雰囲気を漂わせる感じがしますが、カタカナばかりを使って訳す通訳者は、通訳という仕事で手を抜いているとしか思えません。「テレビ」「エアコン」など、カタカナでしか表現できないものは仕方ないとして、英語に対応する日本語がある場合は、文章の前後関係を考えてきちんとした日本語に訳すべきです。今回は工場にいるわけですから、「工場長」、または「この工場の責任者」という通訳をしてみましょう。通訳者を目指す皆さんは、常に受け手に優しいことばを心掛けてほしいと思います。

I will take you around our factory to view its latest facilities. は、このまま英単語だけを見て訳してしまうと、take+人+around なので、「人を連れまわす」となってしまいますが、工場見学に来たお客さま相手に言う訳出ではありませんよね。では、どのように訳出すればいいのでしょうか。このオリジナルの英文には目的を表す to view its latest facilities がありますね。この目的を頭に持ってきて、「本日は、当工場の最新設備をご覧いただきます」と take+人+aroundを「連れまわす」ではなく「ご覧頂く」、または「ご案内する」に変えて訳すと、自然な日本語になります。

いかがでしたか。こんな短い英文でも日本語に訳出する際には、注意しなければならないことがたくさんあるのです。外来語、カタカナは響きが格好良くて便利ですが、これを乱用する通訳は、ただの怠け者です。常日頃から「ことば」に敏感になっておきたいものです。

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