18.映像翻訳の醍醐味

映像翻訳の中の字幕翻訳を詳しく見ていきましょう。字幕翻訳では、映画やドラマの登場人物のキャラクターの年齢、性格、職業、人種、出身など、そのキャラクターを構成している要素を台無しにすることなく、ストーリーやシーンに合わせて字幕を作成します。翻訳者は常に文字数の制限を意識しながら、字幕として見せる情報が半減になったとしても、そのシーンを余すことなく観客に伝えることができるような言葉を選びます。字幕翻訳は「読む翻訳」ではなく「見せる翻訳」と言われるのはこういった背景があるからです。

1枚の字幕につき、横書きで最大13文字×2行の計26文字内に納めなければなりません。この26文字を4(1秒で認識できる文字の数)で割ると、6.5となり、つまり、26文字見せるシーンのセリフの時間は6.5秒となります。しかし、現実に26文字ばかり延々と見せられては、文字を追うことに必死になってしまい、肝心の映像の記憶が残らなくなります。皆さんも字幕翻訳練習として、好きなドラマや映画から翻訳してみたいセリフが何秒で読まれているのか計算してみてください。その数に4を掛けて日本語の文字数を出し、その文字数内で字幕を作成してみましょう。

ここでもう一度冒頭で説明した「登場人物のキャラクターの年齢、性格、職業、人種、出身など、そのキャラクターを構成している要素を台無しにすることなく、ストーリーやシーンに合わせて字幕を作成」というポイントを確認しておきましょう。以下のあるドラマのワンシーンを翻訳してみてください。

リビングルームで機嫌よく遊んでいる子どもがいます。そこへ仕事からパパが帰ってきました。何だか深刻な顔つきのパパ。何かを察したママはパパと大人の話をするために、楽しそうに遊んでいる子どもに自分の部屋に行くように言います。えーヤダーとまだまだ遊びたい子どもは駄々をこね始めました。ママは子どもに “I told you so.” と声をかけます。

さて、皆さんはこの “I told you so.” にどのような字幕を付けますか?少し考えてみましょう。

状況としては駄々をこねる子どもにイライラする様子はありません。ですから「お母さんがそう言ってるんでしょ!」なんて字幕をつけてしまうと、映像の雰囲気とまったく合っていないヘンな字幕になってしまいます。機嫌よく遊んでいる子どもに、その遊びを中断させて悪いことをしたな、でもパパの様子が変だから話を聞いてあげないと、というママの英語のセリフを「いい子だから」と字幕を付けてみるのはどうでしょうか。

このように映像翻訳は、そのシーンやドラマの流れを読み取った非常に「創造的な翻訳」となるので、多少翻訳者の主観が入ることは仕方がないと思います。なるべく原文に忠実に訳すのがもちろん基本ですが、翻訳者のこれまで培ってきた言葉のセンスを試す場でもあります。

有名な「カサブランカ」(1942年アメリカ)という映画では

“Here’s looking at you, kid.”

というセリフに「君の瞳に乾杯」という名訳が生まれています。翻訳者が作成した字幕ですが、今では日本人にとって、映画カサブランカと「君の瞳に乾杯」というセリフは切っても切れないイメージとなっています。

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