12.カタカナの効果

渡辺直美の記事の最後のパートを見ていきましょう。以下の英文を翻訳してみてください。

Watanabe offers another way. She’s not promoting weight gain but instead wants to encourage body positivity. And she posts photos of herself in crazy outfits or funny poses on Instagram.

皆さんは松任谷由実(ユーミン)をあまりよくご存じないかもしれませんが、「天才」という言葉がぴったりのシンガーソングライターです。彼女の創り出す唄の世界は、彼女とほぼ同世代でこれまた「天才」の中島みゆきとよく比べられていました。例えば、ユーミンが「ブティック」と表現するところを、中島みゆきは「仕立屋」と表現したり、ユーミンが「レストラン」と表現するところ、中島みゆきは「食堂」と表現したりと、創り出す世界観が見事に対照的なお二人です。

若者の言葉やIT業界での言葉にはカタカナが溢れかえっています。言葉は生き物で、その時代を反映する文化のひとつですから流行り廃りがあるのは当然です。しかし、日本語(和語)で表現できるものをカタカナで表現すると、どうも古来から使っている日本語よりも外国から入ってきたものの方があか抜けてる、お洒落、重たくない、軽い感じ、難しくない、自由な感じ、と考える傾向があるようです。

例えば、「どこ行くの?」と聞かれて、「はい、近所の八百屋のストアに白菜をショッピングに行きます」とは言いませんよね。「八百屋に白菜を買いに行く」が普通です。「はい、近所の八百屋のストアに白菜をショッピングに行きます」の文章がどうして違和感があるかというと、カタカナである「ストア」「ショッピング」はお洒落なニュアンスがあり、「八百屋」「白菜」と文体が合わないからなのです。

日本人は漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字などの言葉を使い分けることで、日常における表現を豊かにしています。カタカナが持つ表現の効果を上手に使って翻訳することもひとつのテクニックです。

さて、記事にある Watanabe offers another way.のofferですが、「提供する」と訳すことができますね。しかし、ここで「渡辺はもう一つの道を提供する」と表記してみるとどうでしょう。渡辺直美さんがメディアで醸し出しているポップな雰囲気を効果的に伝えているとは言えませんよね。同様にbody positivityも「体の前向きさ」と訳してもピンときません。ここは彼女の明るさと跳ねるような元気さを表現するために、カタカナを効果的に使ってみましょう。

「ワタナベはもう一つの道をオファーする。彼女は体重を増やすことをプロモーションしているのではなく、女性たちが自分の体にポジティブな意識をもてるように女性たちを勇気づけたいために、おかしなファッションに身を包んだ姿や面白いポーズを取って、インスタグラムに画像をあげている」

ひとつ注意。あまり市民権を得ていないようなカタカナを使うのは止めておきましょう。ひところ流行った「ユビキタス」なんて最近ではもう聞かなくなりましたからね。

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