2.翻訳者としての素質

「自分は通訳と翻訳のどちらに向いているのか」についての話の中で、『通訳に比べて時間的な余裕がある「翻訳」では、オリジナル作品が醸し出す雰囲気を考慮して、出来上がりの完成度の高さが求められます』ということを説明しました。通訳者であれ翻訳者であれ、語学が得意というだけでは、この「完成度の高さ」は生まれてきませんし、プロとは呼べません。語学力以外に翻訳者にはどのような素質が必要なのでしょうか。

高いリサーチ力

例えば、日本人であれば「吉野家」と言えば、牛丼チェーン店であることはほとんどの人が知っていますよね。「ランチは吉野家で済ませた」という文章であれば、「忙しいからサッと食べることができる牛丼を選んだのかな」「節約のために吉野家に入ったのかな」といろいろと「吉野家」という言葉から想像することができます。しかし、聞いたこともないような外国の店名、地名、団体名がオリジナルの英語に出てきたとき、これが一体どのような場所で、どのような人が集い、この名前がどのような意味で使われているのか徹底的に調べ上げる必要があります。現場に行く時間やお金があれば、実際に行ってみることも大切です。現場に行かなくてもインターネットの発達のおかげで、あらゆる情報にアクセスし、自分の知識不足を補うこともできる時代です。また、インターネットの検索情報すべてが正しいわけではありませんので、情報の精査も必要です。そして、手書きよりパソコンを使って翻訳作業を行う現代では、パソコンやインターネットを使いこなすITリテラシーも求められます。

オリジナルへの愛情

「好きこそものの上手なれ」とよく言いますが、まさに文芸作品の翻訳では、著者やその作品への深い理解と愛情が必要です。「深い理解」を得るためには、英語で書かれたオリジナルの文章を理解できる語学力は当然必要ですが、それ以上にその作品が大好きだ、という強い気持ちがなくてはなりません。その作品への揺るぎない愛情があるからこそ、翻訳してみたい、他の読者にもこの感動を伝えたい、という気持ちが生まれ、どんなものでも理解できないところは惜しまずに調べ上げようとするものです。労力と時間のかかる翻訳作業には、オリジナルへの愛情は欠かせません。

日本語運用能力

こちらは「通訳」にも必要なスキルですが、「音」として発話と同時に消えていく通訳に比べ、翻訳は消えることなく何度も「目」で確かめることができるものです。目に入れて黙読している読者にとって文章として読みやすいものか、また、時代背景を考えた日本語を選択しているか、主語は「私」にするのか「僕」にするのか、など小説家に劣らないほどの日本語のセンスが求められます。

 3. 直訳は悪か へ >
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